川д川貧乳には魔女の資質がないようです('A`)

2 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 06:50:11 ID:B4mOvoUU0 [2/37]

 おろしたての靴が落ち葉を踏んでは音を立てる。

 その小さな音を聞きながら、右足、左足、と私は足を交互に前に出す。その度足元から音がする。柔らかく吹く風が木の葉を揺らし、どこからか聞こえる鳥の鳴き声と混ざり合う。

 光。

 風に吹かれて形を変える木々の隙間から太陽がわずかに顔を出している。

川д川「私がおひさまを覗いている時、おひさまもまた私を覗いているのだ」

 誰に聞かせるでもなくそんなことを口に出し、私は大きくひとつ息を吐く。この戯言は瞬く間に自然の中に消えていき、誰にも知られることはない。

 そう思っていたので、耳に届いた返事に私は文字通り飛び上がるほど驚いた。

 

 

3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/22(土) 06:51:14 id:B4mOvoUU0 [3/37]
 
('A`)「何言ってんのきみ」

川;д川「どひゃああああああ!!」

 この時私は実際飛び上がっていたことだろう。おそらくだが、仮に計測することができれば、2センチか3センチ程度は宙に浮いていた筈である。

 心臓が爆発しそうなほどの加速で脈を打ち、汗腺が一斉に開いたのが自覚できる。長く垂らした髪で隠れてくれているとは思うが私の両耳は真っ赤になっていることだろう。

 いや、隠れていないかもしれない。

 私の動揺と連動するようにして、つむじ風のような強風が、周囲を巻き込むように発生しているのだ。私の髪はボサボサと風にあおられてしまっている。

 その神の隙間から、驚愕と羞恥心に赤く染まった耳が見えていたとしても何の不思議もないだろう。

 

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/22(土) 06:52:27 id:B4mOvoUU0 [4/37]
 
川;д川「どひゃああああああ!!」

(;'A`)「いや落ち着けって。お前一体何なんだよ」

川;д川「落ち着けるかぁ! お前こそ! お前こそいったい何なんだ! 痴漢か!?」

(;'A`)「痴漢じゃねーし。ちょっと、とりあえずこの風止めない?」

川;д川「止まるかぁ! びっくりしたんじゃああ」

 この不審者との大声による問答でかえって私はヒートアップし、落ち着くことなどできなかった。

 風が強く吹いている。

 やれやれ、といった様子で男は説得を諦めてしまったらしい。風に飛ばされないよう荷物を守りながら私のことを観察している。

 

5 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 06:53:43 id:B4mOvoUU0 [5/37]
 
 猛威を増した強風は私の髪だけでは飽き足らず、私の体をすっぽりと覆っている外套に干渉できそうな強さになろうとしていた。

 寒さや魔法を防げる外套であっても物理的な風を無視することはできはしない。やがて裾が舞い上がる。髪や木の葉と一緒になって私の外套がはだけていく。

('A`)「あれ? きみ巨乳じゃないんだね」

川#д川「乳見とるやないかいぃ!」

 その台詞を聞いた瞬間、満ち溢れていた私の動揺はすべて怒りの感情へと昇華された。自分でも驚くほどにひどく冷静になっている。

('A`)「いや中まで見えてはないけどさ。って、何なに怖い。近寄って。僕をぶつの?」

 私はこの無礼者をぐーで殴りつけることにした。

6 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 06:55:12 ID:B4mOvoUU0 [6/37]
 
川д川「歯ァ食いしばれや!」

('A`)「いやちょっとチョマ――」

川#д川=〇「ッアドーン!」

(*A゜)「うわァー!」

 どーん! と私は男を拳で打ち抜いた。頬骨のあたりにクリーンヒットした勢いを殺さず肩をぐいっと入れるようにして破壊の力を注ぎ込む。

 その衝撃に初速を与えられた男の頭部が鎖を断ち切り自由になろうとしているのがわかる。この場合の鎖とは彼の首とその骨だ。

 その試みが成功すれば、男は新鮮な生首となって空を飛ぶことができていたことだろう。その切断面から噴出する血液が幾ばくかの推進力となることさえあったかもれない。

 

7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/22(土) 06:55:58 ID:B4mOvoUU0 [7/37]
 
 しかしながら、そのようなことにはならなかった。

 私が手加減したからではない。

 インパクトの瞬間、彼が自分から後方へと体重を流しその衝撃を和らげることに成功していたからである。

 私の拳を受けた頭部だけではなく、体全体で処理することで、与えられた破壊のエネルギーによる影響を比較的穏便に済ませることができたのだ。

 “比較的”穏便に、だ。生首ではなく体ごと男は吹っ飛んだ。その勢いの先には大きな木が立っている。

 背中からぶつかる。ぶつからなかった。

 男は空中で器用に体をコントロールし、足から着地するようにして大木との衝突をやり過ごしたのだった。

('A*)「いてて――ずいぶんと力の強い貧乳だな?」

川д川「まだ言うか」

 

8 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 06:56:52 ID:B4mOvoUU0 [8/37]
 
('A`)「わかった、言わない。もう貧乳なんて言わないよ絶対」

川д川「ころすぞ」

('A`)「実行可能なやつが言うとシャレにならんな」

川д川「冗談で言ってるつもりもないからね。――それで?」

('A`)「それで?」

川д川「あなた何なの? たまたまお散歩にきた素人だなんて言わないでよ」

('A`)「いや、たまたまお散歩にきた素人なんだけどね」

川д川「ころすぞ」

('A`)「こわあい。魔女こわあい」

 

9 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 06:57:40 ID:B4mOvoUU0 [9/37]
 
 魔女、と呼ばれた私は自分が身にまとっている濃紺の外套をなんとなく眺める。強風にあおられ、落ち葉がいくつもひっかかってしまった外套だ。

 私は外套をゆすって付着した落ち葉を落ち葉らしく地面に落とすと、全体を再度確認することにした。ゴミなし。綺麗な外套だ。私の体をすっぽりと包み、この私最大のコンプレックスを隠してくれる相棒だ。

('A`)「妙だな、と思ってるのはこっちも同じだよ。――お前、本当に魔女か?」

川д川「はあ? そんな自己紹介した覚えないけど。私は魔女じゃありませ~ん」

('A`)「それじゃあなんで魔女マント着てんだよ」

川д川「持ってるからよ。着ること自体が禁止されてるわけじゃないでしょう?」

('A`)「まあ、それは確かに」

 

10 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 06:59:17 ID:B4mOvoUU0 [10/37]
 
 男が“魔女マント”と呼んだ外套を私は着ている。お母さんからのお下がりだ。私の母はもちろん魔女で、中々の凄腕であったらしい。

 らしい、と言わなければならないのは、彼女は私がほとんど赤ちゃんのような頃に亡くなり、私はその顔を見た記憶すらないからだ。

 魔女は短命。これは世界の常識だ。

 そして、豊満な乳を持つのは優れた魔女となるための大きな資質とされている。これもまた世界の常識で、私がこの恥ずかしがり屋のおっぱいをコンプレックスにしている最大の理由でもある。

('A`)「魔女じゃない者が魔女マントを着るのはバレた場合にリスクが高いが――ま、それだけ力が強ければ問題ないか」

 お勧めしないとは言えないな、と男は言った。

 

11 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:02:09 ID:B4mOvoUU0 [11/37]
 
 なんとヘンテコな男だろう、と私は思った。

 おそらく何らかの変態であるに違いない。しかし、彼からすぐさま何らかの危害を加えられそうには思えない。世の中には有害な変態と無害な変態がいることだろう。無害な変態は放置すべきだ。

 私は大きくひとつ息を吐く。そして気持ちを切り替える。

川д川「――なんていうか、ごめんなさい。ひんにゅー呼ばわりされたことは許せないけど、ぶったりしたのはやりすぎだった。否は認めたし、もう行ってもいいかしら?」

('A`)「いやぁ、だめだろ。もう少し話そうや」

川д川「はァ?」

 なんと話の通じない男なのだ、と私は思った。

 

12 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:03:45 ID:B4mOvoUU0 [12/37]
 
 ざわり。

 男に対する怒りが心の底に湧いてくる。

 意識して魔力に蓋をしておかないと、コップに注いだ水が溢れるように、じきに何かをしてしまいそうだ。

 大きくひとつ息を吐く。努めて気を静めて視線を戻すと、男は私のすぐ側まで知らない間に近寄っていた。薄気味悪い笑顔をしている。

川д川「うわ近! 何キモぃ!」

('∀`)「いやいやひどいな。キモくはないだろ」

川;д川「キモいキモい、その言葉がキモい顔キモい」

('∀`)「まあまあそれは置いといて。ところでさ、きみ魔女じゃないんだよね? すると何? 学生? それとも――」

 学生になりかけだったりしない? と男は言った。

 

13 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:04:35 ID:B4mOvoUU0 [13/37]
 
川;д川「なッ――」

 何故それを、と、肯定しているに他ならない疑問を辛うじて喉のあたりに引っかけて留めた私は、しかし動揺を隠すことまではできなかった。

('∀`)「うんうん。図星か。たいへんよろしい」

 男はそう言い、不信感を人型に固めて作ったような顔で私を眺め、何度も深く頷いた。

('∀`)「おかしいな、と思ったんだよ。そんな魔力で魔女でもないし、学生だったら僕の耳に入ってそうなものだしね。そうかァ、今年、受験生?」

川;д川「――」

('∀`)「こいつも当たりか素晴らしい。当然地元の魔女学校だよね。魔女になるつもりのないやつがそんな恰好しないもんね」

 

14 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:05:23 ID:B4mOvoUU0 [14/37]
 
 男は何かの確信を得ている様子で、わけのわからないことを訊いてきては勝手に納得したような顔で頷き、私に構わずを放ってひとりだけ楽しそうに会話を続けた。

 こんな会話を続けるつもりは私にはまったくない筈なのだが、男の話が魔女に関することであること、社会的な立場など私のプライベートな事柄を何故か的確に言い当てられることなど、無視をするにはあまりに興味深いやら恐ろしいやらといった次第なのであった。

川д川「うぅ……あなた一体何なんですか。変わった趣向の詐欺師ですか」

('∀`)「詐欺師じゃねえよ。まあ詐欺師もやればできるかもしれないけどさ。ま、でも、僕はどちらかと言うと探偵側だ」

 どちらかというと、レオナルド・ディカプリオよりもトム・ハンクスに近い、と男は言った。一体何の話をしているのだろう?

15 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:06:23 ID:B4mOvoUU0 [15/37]
 
('∀`)「僕は真実が知りたいんだ。君はそうじゃないの? ちょっと待って、どこいくの?」

川д川「いやもうたくさんなんで行こうかと」

('∀`)「だめだめ、進学できなくなっちゃうよ」

川д川「あなたにどんな権利があってそう言うの?」

('∀`)「だって僕はその魔法学校の学長だもの。あ、自己紹介がまだだったね」

('A`)+「どうも、学長のドクオです。本校は君を歓迎しよう」キリッ

('A`)「ちょっと待って! どこいくの!」

川д川「いやだって嘘じゃんそれ」

 

16 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:09:24 ID:B4mOvoUU0 [16/37]
 
 いくら私が世間知らずのお子様であっても、この男のような若さで学校の偉い人になれる筈がないことくらいはわかっている。

 しかも私はパンフレットで見たことがあるのだ。

川д川「私も、自分が行きたい学校の偉い人くらいは顔を知っていますよ。馬鹿にしないでほしいな」

(;'A`)「いやいや嘘なんか言ってねーし!」

川д川「はぁもうわかりましたよ。はいはい、あなたが学長ね。もう行ってもいいかしら?」

('A`)「信じてないじゃん!」

川д川「信じる必要ないじゃん。それに、それが本当だったとして、だから何? って感じだし」

('A`)「たしかに」

 

17 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:11:50 ID:B4mOvoUU0 [17/37]
 
 何やら納得いただけた様子なので私はその場を立ち去ろうとした。できなかった。

 何故なら、ドクオと名乗る不審者の口からただならぬ話が語られはじめたからである。

('A`)「――わかった、別に信じなくていい。しかし僕が今後取り組む研究テーマを聞いていけ。僕はこれから学校で、乳房と魔力の因果関係についての研究をするつもりなんだ」

川д川「――」

('A`)「興味はあるみたいだな?」

川д川「――」

('A`)「そりゃあそうだ。お前のような貧乳は、今の魔法学校では決して素質があるとは見なされないことになっているものだからな」

 

18 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:17:28 ID:B4mOvoUU0 [18/37]
 
 その常識をぶっ潰そうぜ、とドクオは言った。

('A`)「僕と君にならできると思う」

川д川「――どうして、そんなことが」

('A`)「言えるのかって? そりゃあ僕がこれまで外国で色々学んできた有能な研究者で、君が類まれなる貧乳のくせに力の強い、常識はずれの存在だからだ」

川д川「――」

 ドクオは私の周りをゆっくりと歩きながら穏やかな口調で語りかけてくる。一貫してうさんくさい、信用などできる筈のない言動である。

 しかし私はそんな気色の悪い男の話に聞き入り、立ち去る意思をほとんどなくしている自分に気づいた。

 

19 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:18:00 ID:B4mOvoUU0 [19/37]
 
川д川「――でも、私が言うのもなんだけど、おっぱいの大きさが魔女の資質と関連するのは動かしようのない事実だと思うんだけど」

('A`)「ほう。それはどうしてそう思う?」

川д川「だって私のお姉ちゃんも魔女だもの。すごく優秀で――」

('∀`)「――乳がでかい?」

川д川「マジきもいわこいつ」

 私はとてもうんざりとした気分になった。

 

20 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:18:59 ID:B4mOvoUU0 [20/37]
 
 しかしながら、事実は否定のしようがない。

 少し年の離れた姉は、とても優しくて立派な魔女だ。母譲りの美貌と素質と巨大な乳を持っている。

 どれも私にはないものだ。

 母の顔を私は知らないが、抱きしめられた幸せな記憶は頭のどこかに保存されており、彼女のことを思い出そうとすると、何とも言えないふんわりとした気持ちと共に復元される。おそらくだけれど、私の母もまた優秀な魔女で、豊満な体をしていたに違いない。

 母や姉を抜きにしても、世にあふれる魔女は往々にして豊かな乳房を持っている。

('A`)「なるほどね」

 少し考え込むような顔をドクオは見せた。

 

21 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:30:06 ID:B4mOvoUU0 [21/37]
 
('A`)「相関関係と因果関係の違いが君にはわかっているのかな?」

川д川「そーかん? いんが?」

('A`)「えっとね、相関関係というのは、たとえばAとBって事象があったとして、Aが増えていればBも増える傾向にあるね、っていうような関係のことをいうんだけども」

川д川「じしょー?」

('A`)「あ、そこから?」

 この貧相な顔の男は、むかつく表情でポリポリと頭を掻いた。私はそれを不快に思った。

 

22 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:32:08 ID:B4mOvoUU0 [22/37]
 
('A`)「そうだなあ、たとえ話でもしようか――うわ何こわ!?」

川#д川「いや別に? ちょっと知らない単語を並べてマウント取られて学歴コンプがささくれ立ってるだけだけど?」

(;'A`)「えぇ~そんなつもりはないんだけどなあ。ほら、今から説明してあげるからさ、ひとつ機嫌を直してくださいよ」

川#д川「説明して“あげる”?」

('A`)「説明させていただきます――」

川д川「仕方ない。つづけたまえ」

 

23 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:34:01 ID:B4mOvoUU0 [23/37]
 
('A`)「ええとね、そうだな、運動能力の話にしようか。足の速さとお菓子でいいや。ところで僕は最近のこの国の情勢についてよくわかってないんだけど、君の家では日常的におやつを食べられてるかな?」

川д川「おやつ? ええと、木の実や簡単なものなら自分で勝手に食べたりするけど、たとえばケーキなんかは特別な日じゃないとお目にかかることもできないね」

('A`)「そんなものか。この数年の間にだいぶ豊かになったものだね。それとも君のおうちが裕福なのかな。魔女の家系なんだろうしね」

川д川「そうね、どちらかというと裕福な方だと思う」

('A`)「この場合、お菓子をたくさん食べてる人はそうじゃない人と比べて足が速い傾向にあると思う?」

川д川「傾向とかは知らないけど、お菓子食べたからって足が速くなるとは思えないね」

 

24 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:35:46 ID:B4mOvoUU0 [24/37]
 
 そうだよね、とドクオは言った。

('A`)「お菓子を食べたら足が速くなるなんて思えない。誰だってそー思う。おれだってそー思う」

('A`)「だけどね、おそらくだけど、データを取って解析したら、お菓子をたくさん食べている子は足が速いって結果が得られるんじゃないかと思うんだ」

川д川「何それ、なんで?」

('A`)「何故ならお菓子をたくさん食べられるような家庭は裕福で、ご飯をたっぷり食べられ良い靴を履いているかもしれないからさ」

川д川「ふぅん。馬鹿みたいな話ねえ」

('A`)「馬鹿みたいだと思う?」

 

25 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:36:57 ID:B4mOvoUU0 [25/37]
 
川д川「だってさ、お菓子と足の速さなんて、元々関係あるはずないじゃん。それをよくわかんない考え方して、無理やり関係あるとか言っちゃうわけでしょ?」

('A`)「そうだよね。それで、僕はバストの大きさと魔女としての素質の関係性が、君の言う馬鹿みたいなものなんじゃあないかなと思っているわけなんだ」

川д川「――!」

('A`)「だってさ、おっぱいがでかけりゃ魔女として有能になりそうだなんて、そんなことがある筈ないと思わない?」

川д川「――」

('A`)「僕はね、それを証明したんだ」

 

26 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 07:39:01 ID:B4mOvoUU0 [26/37]
 
 私の頭の中で常識が揺らぐ。

 私はこれまでずっとこの小さな胸をコンプレックスに思ってきたのだ。良い魔女となるには大きな胸をしていなければならない。そうでなければ魔女を目指すだけ時間の無駄で、何か他の職業に就くことを考えた方が身のためだ。

 そんな常識の中で私はこれまで生きてきた。

 だからこの身にどれほどの魔力が備わっていようと、目に見えない“素質”というものがないのだから、魔女学校への進学希望は叶えられてこなかった。

 私にできることはせいぜい毎日たくさん牛乳を飲んでなるべく睡眠時間を長くすることと、魔力をどこかで発散させる時には魔女用の外套を着こんでこの身を守るくらいのことだった。現在私の保護者である姉は親切で優しいが、魔女を目指す手助けをするのではなく母の形見の外套を私に貸してくれるだけだった。

 

27 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 08:34:57 ID:B4mOvoUU0 [27/37]
 
 この私のもつ常識が、思い込みに過ぎないとでもいうのだろうか?

('A`)「研究する価値はあると思う。おそらく魔女としての素質があるというのも、乳がでかいというのも、どちらも同じく“現象”なんだ。“原因”はほかにあるんだと思う」

('A`)「僕はそれを解き明かしたい」

川д川「――それに、私が必要なの?」

('A`)「そうだよ。君はその若さと乳房で魔力に溢れている。明らかに魔女としての素質があるだろ。これは常識的にはあり得ないことだ。しかし、こうして現実にあり得ている!」

 

28 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 08:35:43 ID:B4mOvoUU0 [28/37]
 
 完全に私を被検体として扱うつもりの男に、私は何故だかこれまでほど強い忌避感を抱かなかった。

 気色悪さが限界突破してしまったのかもしれないし、ずっとこれまで魔女としての素質がまったくないとされてきた人生において、はじめてはっきりとその素質を認められたからかもしれない。

 あるいは、男性からまっすぐに見つめられるというはじめての体験がそうさせたのかもしれない。

 いや、ないか。

 こんな気色の悪い男に限ってそれはない。

川д川「それで、どういうことを調べるつもりなの? プランは立っているんでしょうね」

 あまり期待をせずにそう訊いてみると、ドクオはニヤリと笑って頷いた。好意を抱きようのない顔だな、と私は思う。先ほど忌避感なく見られると思ったのはどうやら勘違いだったらしい。

 私のテンション低下に構わず男は熱弁を続けた。

 

29 名前:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 08:43:46 ID:B4mOvoUU0 [29/37]
 
('A`)「具体的な方法は追々説明するとして、とりあえず最優先で用意しなければならないのは、ちゃんとした評価基準とその評価方法だろう」

('A`)「これは目星がついていて、実は僕のこれまでの研究で、魔力の大元となる器官の特定がほぼほぼできそうになっているんだ。これがわかれば魔力の微妙な変化や、魔力として働く前段階での何らかの物質の評価ができる。そして、おそらくこれが“良い魔女となるための資質”なんて呼ばれるものの正体だ」

(#'A`)。「それができれば勝ったも同然、貧乳だが魔力の強い君やそこらへんにいる力の強い爆乳魔女の体では感受性が高いけれど、普通の貧乳や巨乳の体では感受性が低い要素を特定すればいい」

('∀`)「どうだ! うはー夢がひろがりんぐだろう!!」

川д川「よくわからんよ」

 

30 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 08:45:02 ID:B4mOvoUU0 [30/37]
 
 私にわかったのはこの男が並々ならぬ情熱を魔女研究に燃え上がらせていることと、どうやら何らかの展望を既に考えられているということくらいのものだった。

川д川(いや、他にもあるな――)

 私は静かにそう思う。

 これは確信と言ってよいだろう。私はこの貧相な顔の男が信用できない。

 そして、信用できない人間がよくわからない内容の話を熱く語る様というのは、身の毛のよだつ気味の悪さをしているということである。

('∀`)「実は当たりをつけている器官はリンパ節だ。だからリンパマッサージなんてのも試すべきことに含まれるだろう。リンパを流すだけですからね、これはあくまで施術ですからね、なんつってさ! うっひょー!」

川д川(テラキモス)

 

31 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 09:06:49 ID:B4mOvoUU0 [31/37]
 
 これまでの人生の中で培ってきたフェイドアウト・テクニックを駆使して私は熱弁する男の視界を離れた。彼は己の力説に熱中するあまりジェスチャーが大きくなりすぎていて、まるで世界に向かって演説しているような形になっていたのだ。

 ススス、と忍びの動きで私は彼から遠ざかる。

Σ('A`)「あれいねえ!?」

 その発覚の瞬間が鬼ごっこのはじまりだった。私は彼から遠ざかる。彼は私を追いかける。それほど熱心に追いかけてはこなかった。

('A`)「わかってるだろうな! 入学すれば! お前には僕の研究に協力してもらう!」

 そんな負け犬の遠吠えが遠くで聞こえる。遠吠えなのだから当然といえば当然だ。

 

32 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 09:07:26 ID:B4mOvoUU0 [32/37]
 
川д川「いやあ、それにしても気持ちの悪い男だった」

 這う這うの体で帰宅する道すがら、私は独り言でそう言った。平常心を取り戻すためである。冷静な声を耳に届け、心を冷静なものに整える。

 家に着くころにはすっかり私は落ち着いていた。

川д川「ただいまー」

川 ゚ -゚)「おかえり。早かったな」

川д川「いやあ、それが森で不審者に遭遇してさ。なんとか死にも殺しもせずに帰ってきた」

川 ゚ -゚)「えらいえらい。世界は危険に満ちてるな」

川д川「本当だよ。おうちが一番」

川 ゚ -゚)「こいつめ、ハハハ」

 

33 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 09:08:06 ID:B4mOvoUU0 [33/37]
 
 そのままの流れで優しく寛容でおっぱいも大きいお姉ちゃんと雑談しながらお茶をする。素晴らしいひとときだ。

 だから優れた魔女でもある彼女から驚きのニュースが聞かされた時、私は我が耳を疑った。

川 ゚ -゚)「そういえば魔女学校な、今年から学長が変わるらしいぞ。入学基準も変わるかもしれない。お前も色々対策してたが、ひょっとしたらそんなものは不要となって、単純な現魔力量なんかでイケるかもしれない」

 私にとって何より悲劇だったのは、私のこの誇るべき姉が、このニュースをまったくのグッド・ニュースとして私に届けてきたことだった。

川;д川「学長が――変わる」

川 ゚ -゚)「噂では、次の学長は歳こそまだ若いけれど、外国で勉強してきた新進気鋭の有能らしい。良くしてくれると嬉しいな?」

 

34 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 09:08:41 ID:B4mOvoUU0 [34/37]
 
川;д川「嗚呼――!」

 自分の中では処理しきれないこの感情を、私は絶叫に昇華した。思わず取っていたのは“祈り”の姿勢だった。

 すべてを魔力に変換してこの世を破壊してしまいたい衝動に身を任せなかった自分を褒めてあげたい。もっとも、そんなことをしようとしても、ただちにお姉ちゃんに防がれてしまうのがせいぜいだろうが。

 何を考えているのか自分でも整理がつかなくなってきた。とにかく私が先ほど会った薄気味悪い男はひょっとしたら本当に私が入学を希望している魔女学校の学長なのかもしれなくて、不信感しか抱けない内容の研究に私を巻き込もうとしているのかもしれない。

 

35 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 09:09:17 ID:B4mOvoUU0 [35/37]
 
 フラッシュバックのようにドクオの放った言葉が私の脳裏に蘇る。彼の私に対する印象を決定づけ、嫌悪感の源となった言動だ。

 たしかその時私はこう言った。

川д川「――よくわかんないんだけど、それって別に私を使う必要なくない? ほーまんな魔女らと素人を比較して違いを考えればいいだけじゃないの?」

 その私の素人質問に、いい質問だね、と彼は答えた。

('A`)「それは実にいい質問だ。――あるいは僕は、真に科学的な視点でこの研究をできてはいないのかもしれない」

 仮定があるんだ、とその時ドクオは私に言った。

 

36 自分:名無しさん 投稿日:2020/02/22(土) 09:09:58 ID:B4mOvoUU0 [36/37]
 
('A`)「優れた魔女は、本来貧乳であるべきなんだ。――そうだよ、僕の好みの問題だよ。優れた魔女は本来貧乳であるべきだ。重要なことなので2回言わせてもらったよ」

(*'A`)「だってほら、貧乳ってステータスじゃないか! 素晴らしいことだよ! たまらない! この良さがわからないなんて、世の中の方が狂ってるんだと思うんだよね!」

川д川「エェ何こいつまじキモイ」

 彼はとてもキモかったのだ。

 

37 自分:名無しさん[] 投稿日:2020/02/22(土) 09:11:03 ID:B4mOvoUU0 [37/37]
 
川 ゚ -゚)「どうかしたか?」

 いぶかしげな表情の姉に私は自分を取り戻す。あぶないあぶない。あやうく貧乳フェチへの嫌悪感にこの身を焼き尽くしてしまうところだった。

川д川「いやあ、なんでもないよ」

川 ゚ -゚)「なんだあ? ほら、悩みごとがあるならお姉ちゃんに言ってみろ」

川д川「うわあ、ちょっとやめてよ」

 優しいお姉ちゃんが私に近寄り豊満な乳房でスキンシップを図ってくる。悪い気持ちはまったくしないが、どうしても私は自分のコンプレックスを再確認する。

 その瞬間、決して受け入れられない気色の悪い男の顔が頭にちらつき、私は脳内で彼を撲殺した。

 

 

   おしまい。